Fake Plastic Trees

音楽とシステム,及び機械学習との関わりについてのサーベイや実装など.https://twitter.com/iwa_sheep

琥珀色の街 - 2019.08のプレイリスト

「タカハシサン、上海の空は、ナンバーガールが良く合うんです。」

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Pudong Xinqu, Shanghai Shi

 

 2019年8月、上海へ2回出張した。仕事でとある音楽プロジェクトのシステム・AI部分の研究開発を行っていて、そのライブ公演を行うためだ。

 1回目の渡航ゲネプロのために行ったのだが、台風Lekimaの襲来により困難を極めるものとなった。2回目の渡航は、そこそこ天候にも恵まれた。成田から浦東空港へ直行で、浦東地域のホテルに3泊した。
  現地の、痩せぎすで長身の中国人のエンジニアが僕に話しかけてきた。彼は日本、とりわけ日本のロックバンドのことを敬愛していた。

 

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上海夜景

 「タカハシサン、音楽は好きですか?」

 「好きだよ。」

 「今年は、いろんな日本のロックバンド復活した。ナンバーガールは好きですか?」

 僕は彼の熱のこもった目をみながらうなずいた。

 「タカハシサン、上海の空は、ナンバーガールが良く合うんです。」

 「良く合う?」

 彼は、上海の空とナンバーガールの相関関係を言葉にしようと熟考し、3回親指の爪を人差し指で擦って、目を閉じてしまった。適切な日本語に翻訳できないのか、そもそもの言語化に戸惑っているのか僕には判断できなかった。

 彼の言語化を待つ間、ふと窓の外を眺めた。いつの間にか降り出した雨が、上海の無機質な風景を静かに濡らしていた。沈黙の隙間を、タタタッ、と雨粒が窓を打つ音が満たした。

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上海の空


1,  NUMBER GIRL - Destruction Baby

  上海は高度に発達した都市部と、トラディショナルな趣を残した繁華街が共存するカオスの様相がとても好きだ。上海の人は(少なくとも僕が現地で出会ったほとんどの方に限っては)暖かく、ホスピタリティにあふれていた。

 痩せぎすの彼に言われてから、改めて NUMBER GIRLを聴きながら街を歩いた。異国の地で聞くNUMBER GIRLは、どうだろうか。激しく光る狂気のネオン、雲を突き抜けたビル、繰り返される化粧品や装飾品の広告動画。それらを包み込むグレイの空。

 彼のいうこともわからなくないなと思った。

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繁華街

 

2, HAIM - Summer Girl

  LAのバンドHAIM。3姉妹、モデル。ミニマムな音作りのドラムと、アンニュイなボーカルが最高にチルでダウナーでとても良い1曲。

 「Days Are Gone」の時は大味でピンとこなかったが、この1曲で虜になった。ルーリードからのインスパイアを明言していて、そのリスペクトも感じられるのでとても良い。

 

3, Mannequin Pussy - Drunk II

 

 マネキンプッシー。アメリカのバンド。Yeah Yeah YeahsのカレンOみたいなワイルドで不安定な魅力をもつフロントマンと、ringo deathstarのようなシューゲイザーっぽいノイズと切なさが良い。他の曲はあまり好きではなかったが、この曲には強く惹かれる。

 

 

4, Ykiki Beat - Forever

  夏になると聴きたくなる。もうバンドは解散しているが、この曲は残り続ける。

 

 

 

5, Foster the People - Pumped Up Kicks

 

 これも毎夏聞いている気がする。ヒエラルキー的にNerd穿った一夏の曲という感じで、とはいえそれがコンパクトで静かな憤りとしてまとまっているのがとても美しく好きだった。最近の彼らは、この頃の彼らが(おそらく)忌み嫌っていたであろう上流階級になってしまい、音楽も大味でFunkよりになってしまっているのがとても悲しい。

 

6, Bon Iver - iMi

  Bon Iverの新作アルバムからiMi。ブラックミュージックとかゴスペル的な要素を現代的に解釈した作風。前作からサウンドスケープがより横に広がった感じがしていて、単純に聞いていて楽しい。アルバム全曲通してよかった。

 

7, Thom Yorke - Dawn Chorus

 突如発表されたRadioheadフロントマン、Thom Yorkeの新作ANIMA。ファンの間ではすでにThomソロの最高傑作と言われる本作だが、それも頷ける完成度。

 Thom本人もDJをやるので、そういうループチックで機械的なトラックメイキングなアプローチが多いが、それが無機質さとメロディのメランコリックさが良い具合に噛み合っている。本人の意匠で曲間の繋がりを断絶せずにつなげているのも、DJをプレイする彼ならではのテクニカルな巧みさと、ディストピアの悪夢を表現しようとした、終わりのない連続性を体感できて良い。

 Dawn ChorusはMy Bloody ValentineのNo More Sorryのような、ループする耽美なBGMに囁くようなメロディを置く幽玄な曲。夢の中で時に訪れる休息地のような印象。

 

8, 神聖かまってちゃん - いくつになったら

  動画ありきだが、平成で一番ロックンロールをしていたバンド。フロントマン、の子氏は、ほとんど4コード(4 -> 5 -> 3 -> 6)の進行で数多の名曲を生み出す稀代のトラックメーカーでありながら、その言動全てが魅力的な人間。長生きしてほしい。

 

9, くるり  - 琥珀色の街、上海蟹の朝

  岸田氏があえて避けていた、ブラックミュージックやシティポップさに初めて取り組んだ曲。日本語ラップへのリスペクトが感じられてとても良い。子音の発音の仕方がとてもカッコよい。

 

 

 


 

 

 「ムカイさんの心が、曲じゃない深いところで、いろんな街とつながってる、思います。」

 彼はそう言うと、現場の舞台監督に呼ばれて去っていった。残されたカップに入ったコーヒーの水面が、舞台から流れる音楽に合わせて小刻みに揺れていた。